原子番号85 アスタチン

アスタチンは放射性元素であり,ここではアスタチンを初めて合成した際の加速器の写真が封入されています.アスタチンには安定同位体はなく,半減期も数時間程度と非常に迅速に崩壊してしまう元素であり,その名もギリシャ語の「不安定」(astatos)から名付けられました.

Element Cube_アスタチン

安定同位体が無くどころかすべての同位体の半減期が非常に短いアスタチンは,自然界にはほぼまったくといっていいほど存在していません(一応,他の核種の崩壊により一時的に存在はしているはずですが,岩石中に数個,といった量しかないため検出はできません).アスタチンをはじめて生成したのはアメリカのカリフォルニア大学バークレー校で,209Biにサイクロトロンで加速したアルファ粒子(4Heの原子核)を衝突させることで1940年に生成に成功しました.

アスタチンは最も寿命の長い同位体でも半減期が数時間程度しかなく,現時点で応用は行われていません.ただ,癌に対する放射線療法に使えるのではないかという事で研究が行われているようです.癌細胞に結合しやすい分子に放射性元素を組み込むと,分子が癌にくっついた状態で核崩壊が起き,癌細胞に集中的に放射線を浴びせることが可能です.この用途ではβ線を出す核種である90Yなどが用いられているのですが,より癌細胞へのダメージが大きくしかも飛距離が短いので余計な部分へのダメージを減らせるα線を出すことのできる核種として,211Atが注目されているとのこと.アスタチンは有機物に組み込みやすいハロゲンの一種ですので,分子内に共有結合で導入でき,途中で分子から外れて余計なところにダメージを与える可能性が低い元素です.α線を出す核種の多くは同時に余ったエネルギーをγ線として出してしまうため他の組織へのダメージが問題になるのですが,211Atはα線しか出さないことが知られており,より安全な医薬品になると期待されています.

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