試料の測定(粉末編)

 

ここでは簡単に,SQUIDを用いた粉末試料の測定法を紹介します.粉末試料を測定する際,一番気をつけないといけないことは試料が装置内に飛散しないようにすることです.飛散してしまうと測定がうまくいかないだけでなく,以後の測定時に混入する可能性もありますので装置内の清掃が必要になります.従って,粉末サンプルは何らかの容器内に密閉して測定する必要があります.
測定は通常,ストロー内にサンプルを固定し,そのストローをサンプルロッドに取り付けて行います.

ストローは余計な不純物を含まないよう,無地で透明なものが良いのではないでしょうか.通常は装置と共においてありますので,それを使用します.SQUIDの測定原理上,つまりサンプルを上下に動かして差分をとる,という動作のため,縦方向に均一な磁化を持つものは測定に影響を与えません.そのため理想的な形状のストローであれば,(その端が測定に引っかかるほど大きく上下に動かさない限りは)測定に対して問題は生じません.
この中にセットするサンプル用のカプセルとしては,アルミホイル,ラップ,医薬品用カプセル,石英管などが考えられます.それぞれ利点や欠点がありますが,まとめると以下のような感じでしょうか.

  • アルミホイル

  • 長所としては,正の磁化率を持つため測定がやりやすい点(後述),サンプルを封入するのが容易な点,磁化の絶対値が小さい点,入手性の高さやストローへの固定の容易さが挙げられます.欠点としては,磁化がある程度温度依存する点と,微量の常磁性不純物を含む点が挙げられます.個人的には粉末試料はほとんどこれで測定しています.
  • ラップ

  • こちらも入手性が高く,また封入も容易です.ただし,磁化は負に出ますので,サンプルの磁化の大きさによっては打ち消しあって測定が困難となる温度域を生じることがあります(後述).
  • 医薬品用カプセル

  • そこそこの大きさの容積を確保できます.ただし,サンプルをSQUID内に入れる際,減圧条件になった際に中身が飛び出さないよう接着剤等でカプセルを封じるなどの対策が必要です.また,ストローへの固定も工夫する必要があるかも知れません.
  • 石英管

  • その厚みのため非常に大きな反磁性を生じ,測定上は不利です.しかし,グローブボックス中でサンプルをバルブ付きの石英管に詰め,その後封じきるなどの手法で無酸素であったり様々なガス雰囲気中にサンプルをおいての測定が可能です.また,石英管に封じた後,熱処理をして測定,さらに温度を変えて熱処理をして……といった測定も行えます.
さて,サンプルをこれらのカプセルに入れる際に気をつけないといけないのは,測定される結果がサンプルの磁化とカプセルの磁化の和になるということです.これが特に問題になるのが,磁化の小さいサンプルを測定する場合です.Quantum DesignのSQUIDは,磁化の絶対値がおよそ10-6emuより小さいものは定量的に測定することが出来ません(最近の機種だとカタログスペックでは10-7emuだの10-8emuだのといった機種もありますが,まあ10-6emuぐらいはあった方が嬉しい).従って,サンプルの磁化+カプセルの磁化が,全温度領域で10-6以上,もしくは-10-6以下であることが望ましいと言うことになります.
ここで,サンプルの磁化が常磁性的であったとしましょう.つまり高温では値が小さく,低温では大きくなります.少量のこのサンプルを仮想的に,カプセル無しの条件で測定すると,高温側では磁化が小さすぎて測定限界以下となりますが,低温では十分測定できる,という条件になります.さて,このサンプルをアルミホイルで包むと,サンプルの磁化にアルミの磁化(近似的には温度にあまり依存しない一定値)が足されるため,十分な量のアルミホイルを使えば全温度領域で10-6emu以上の磁化とすることが出来ます.今度はこのサンプルをラップや医薬品用カプセルで包んだ場合を考えると,今度は大きな反磁性が加算されますので,高温側ではラップの反磁性が勝って-10-6emu以下の負の値が測定され,低温ではサンプルの磁化が勝って10-6emu以上の磁化が測定されることとなり,これらは十分測定可能となります.しかし中程度の温度域では,サンプルの磁化とカプセルの磁化が打ち消し合い,測定不能領域となってS/N比が非常に悪くなってしまいます.

このため,こういった反磁性のカプセルで包む場合は,いっそラップなどの量を増やして全温度領域で-10-6emu以下の反磁性となるようにした方がきれいな測定を行える可能性があります.こういった点を考えると,常磁性物質を測定する場合はアルミホイルはなかなかお勧めです.ただし,アルミホイルは微量の常磁性不純物を含み,また自身の磁化も緩やかな温度変化を示します.そのため,同じロット(同じ箱のアルミホイルの,カプセルに使ったのとは別の部分)を測定しておいて,適当に重量に応じた倍率をかけてバックグラウンドとして測定値から引いてやる必要があります.同じ箱のアルミホイルなら,不純物量や温度変化の具合はおおよそ同じと見なせるようです.以下に,あるアルミホイル27.6mgの磁場1000 Oe下での磁化の実測値を示します(データが離散的な値に量子化されているのは,このグラフを作る際の桁落ちですので気にしないでください).

さて,このアルミホイルでどのようにサンプルを包むか,ですが,まず適量のアルミホイルを四角く切り取り,四辺を内側に90度曲げて升状の容器を作ります.また同時に,後からくるむためのアルミホイル片をもう一つ用意しておきます.この二つのアルミホイルがバックグラウンドの磁化となりますので,二つを合わせた重さを測定しておいてください.私がやる場合は,二つ合わせてだいたい15-25mg程度のアルミホイルを使います.
続いて,この升状のアルミホイル容器に,粉末状のサンプルをざらざらっと入れ,入ったサンプルの重さを測定します.

そうしたらいよいよ封入です.まず,サンプルがこぼれないように升状のアルミホイルの四辺を内側に折りたたんでいき,サンプルを内部に閉じ込めます.次に,折りたたんだ隙間から万一にでもサンプルが出てこないよう,もう一つのアルミホイル片を上からかぶせ,裏側に折り込んでいきます.まあこちらはサンプルが出てこないよう念のためにやっているだけで,本質的なものではありませんが.
こうして出来たアルミホイルの固まりを,上からぎゅっと押しつぶして円盤状にします.この時,直径がストローの直径よりやや大きくしておく必要があります.アルミホイルがどこかで破れていないかどうかもきちんと確認してください.

このアルミホイルの円盤をストローに入れます.直径が少しストローより大きいため,ストローの側面を軽く押しつぶして楕円形にし,そこに滑らせていきます.円盤がストローの中央付近に来たらストローを押しつぶしていた指を離せば,ストローが元の直径に戻ろうとし,直径よりやや大きいアルミの円盤がぎゅっと押されてストローの中心に固定されます.

これで測定可能ですが,万が一測定中にアルミのカプセルが下に落ちるのが怖い,という場合は,ストローの下部をカプトンテープで塞いで,ガス交換用の空気穴だけ側面に開けた状態にすればOKです.空気穴を切り取るには片刃のカミソリなどが便利です.

これで後は測定するだけ,なのですが,粉末試料の場合,磁化過程の測定時に注意が必要です.粒子が小さい場合,磁場をかけると粒子ごとぐるっと回転してしまい,磁化過程がきれいに測定できないことがあります.例えば以下のグラフは,あるナノ粒子のサンプルの磁化過程を測定したものなのですが,ゼロ磁場付近で磁化ががくっと落ちているのが見えるかと思います.

これは別にここで転移があるというわけではなく,磁場が逆向きにかかった際に粒子がくるっと回ってしまい,保持力以下の磁場で磁化が粒子ごと反転してしまう事に由来します.こういったサンプルを測定する場合には,例えば前述のアルミカプセルであるならぎゅっとしっかり押しつぶして,粒子同士の摩擦を増やす,ということが有効です.ただし,ナノ粒子の場合は粒子が細かすぎるため,そういったマクロスコピックな圧縮ではうまく粒子が固定できない場合があります.そういう場合は,例えばKBrのようなものと一緒に固めてペレットにしたり,透過電顕測定用の樹脂(例えばEpon 812など)で固めてしまうのが有効です.特に透過電顕用樹脂の場合,もともとナノ粒子を固めるために開発されているものですから,ナノサイズの粒子にしっかり回り込みきっちり固定することが出来ます.ただし,樹脂の反磁性分だけ大きく負の磁化がバックグラウンドとして乗ってくる点には注意が必要です.
実際に先ほどの回転していたサンプル(の類似物)をEpon 812で固めて測定した結果がこちらとなります.

まだゼロ磁場付近で折れ曲がる挙動が若干見えていますが,ある程度ましになった測定が可能となります.うまくサンプルを作ればもっときれいな磁化曲線になるのですが,今ちょうど手元にあったデータがこれでしたので少々の不格好さはご勘弁を.